Bye Bye SPRINTER

車を買うというのにこんなに心が重いとは思わなかった それは
マンションの駐車場の113番の区画にいる
あのスプリンターが気がかりなせいだ


たった今替えたオルタネーターさえすぐに壊れてしまう彼は しかし
僕と家族の安全を守ることだけは 必ず忘れないでくれた


年とともに車は価値が下がっていくと人は言う けれどそれは多分嘘だ
思い通りに走れる気持ちよい乗りごこち 乗りなれたハンドルの安心感


様々な思い出を乗せたスプリンターは
柔らかな陽だまりと悲しい静けさの中


車内での話題といえば子供の話題とクイズの話 それから
とるに足らない笑い話をスプリンターは いつも黙って静かに聴くばかり


13年もの長い間に車はすっかり時代遅れになった それは事実
だけど車を装備やスペックで語れば それは嘘になる


まぎれもなく人生そのものがドライブで 僕より先にきっと彼はエンコする
幸せ 不幸せ それは別にしても 真実は冷ややかに過ぎていく


様々な思い出を乗せたスプリンターは
柔らかな陽だまりと悲しい静けさの中


たったひとつだが僕にもできるささやかな真実がある それは
新しい車に彼と同じ4桁を 来週からつけること